Last Oath
愉しそうな、冷たい声が響く。
「ククク・・・・未来から来た少女、ですか・・・・。」
銀色の長い髪が、さらりと肩から流れた。
どこか死神を連想させるそれは、美しさをも兼ね備えている。
「・・・はっ・・・、そ、その少女は・・・豊臣に少なからず、ちょ、重宝されているも、模様っ!」
「・・・・ほう・・・・豊臣・・・・ククク・・・・・・。」
「・・・・・しょ、少女は珍妙な白い着物に身を包み、て、天才と謳われる軍師、竹中半兵衛の伴侶として、あ、預かられてい・・・・・ひ、ひぃっ!!」
兵は男の冷たい瞳にとらわれた瞬間、たちまち腰を抜かしてしまった。
「・・・面白い・・・・、豊臣の軍師にはそろそろ御礼をしようと考えていたところです。」
不気味に笑った銀髪の男は、味方であるその兵を巨大な鎌で斬りつけた。
薄暗い部屋に断末魔が一瞬、それとともに男の高らかな笑い声が、冷たい空間にいつまでも響いていた。
「ねぇってば!」
少女の怒りの篭った声が、辺りをしんと静まらせた。
部屋にいた何人かの兵たちは、気まずそうに顔を背けた。
「・・・落ち着けよ・・・・。」
「まだ邪魔をする気かい?僕は見ての通り秀吉と重要な話をしているんだ。早く部屋から出て行きたまえ。」
「・・・半兵衛も・・・・」
「ごめんって言ってるのに!!なんでそんな怒るの?!意味わからん!!」
「・・・・・・・・・」
「僕が怒っている?君こそ言っている意味がわからないね。怒っているのは君の方だろう。もういいから早く出て行け。」
「・・・・・は、半兵衛・・・。」
「半兵衛が怒ってるからが怒ったの!!」
「・・・・・。」
「とにかく部屋から出て行け。邪魔だよ。」
「やだ!!!」
「邪魔だと言っているのがわからないのかい?遊んでるんじゃないんだ。」
「やだっ!!!」
「・・・・・・まるで話にならないね。」
秀吉は口論を続ける二人を、苦い表情で見比べた。
「半兵衛鏡見てみなよ!!風邪ひいてるって自分でわかんないのっ!?」
「うるさい。」
「ほんとはきついくせに!!意地っ張り!!!」
「僕がきつそうなのだと思うなら、僕を疲れさせるようなことはしないで欲しいな。」
「・・・!!」
半兵衛は近くにいた兵に目で合図を送ると、兵は申し訳なさそうにの腕を掴んだ。
「!?」
「・・・半兵衛・・・」
「秀吉は黙っていてくれ。」
「は、はなしてよ・・・っ!!」
暴れるを見たあと、兵は戸惑ったように半兵衛を見た。
「自分の部屋にでも放り込んでおいていい。部屋から出るようなら見張りをつけて。」
「・・・は、はっ・・・・・;;」
「やめてよはなしてよっ!半兵衛のバーカ!!ぶっ倒れても知らないからね!!」
「それでも駄目なようなら城から追い出していいよ。」
「が死んだら呪ってやる!!毎晩半兵衛の耳元で怖い話してやる!!一人でトイレも行けなくなるんだもんねー!!」
「・・・・やはり城の外に出す方がいいようだね。」
兵は「行け」という半兵衛の強めの口調にビクついて、弾かれたようにを連れて部屋を出て行った。
の声が段々遠ざかっていくのを聞いて、半兵衛は深くため息をついた。
「・・・半兵衛・・・。」
「・・・・・すまない秀吉、話を続けよう。次の戦は・・・」
「半兵衛。」
「・・・・なんだい?」
「とてお前を怒らせようとしたわけではなかろう。あれは少し言い過ぎだと思うが。」
「・・・いいんだよ、は馬鹿だからすぐ忘れるさ。」
そういうと、半兵衛はさらに話を続けようとした。
秀吉は投げやりな半兵衛の様子に、呆れたようにため息をつく。
「だが半兵衛、はお前の為に言ったのだぞ?」
「だから僕は余計だと言ったんだ。」
と半兵衛の喧嘩の発端は、が半兵衛を無理やり眠らせようとしたことにあった。
始めはお互い普段どおりの会話をしていたものの、決して休もうとしない半兵衛に痺れを切らし、が強行作戦に出たのだ。
その拍子に墨が思い切り大切な書類の上に零れ、が謝ったところ半兵衛がを突き放した。
暫く謝っていただったが、あまりに罵倒されたのでこのような喧嘩に発展してしまったのだ。
「邪魔者以外の何でもない。」
「だが半兵衛。のいうとおり少し休んだほうがいい。」
「平気だよ。」
「風邪をひいているのだろう?悪化して倒れられては困る。近いうちに、戦もある。」
「・・・・・・・・・。」
「わかったら部屋に戻れ。」
「・・・・わかったよ。」
半兵衛は熱い額を押さえ、小さくため息をついた。
実は、酷い頭痛に朝から見舞われていたのだ。
一番初めにそれに気づいたのが、だった。
会った瞬間、「半兵衛、きついんでしょう?薬あげるから、休みなよ。」と言ってくれた。
休むわけにはいかないというと、は少し困ったように顔を歪ませて、駄目だと言った。
それから風邪のだるさから、苛々が増してに八つ当たりしてしまった。
「・・・・・。」
自分の情けなさを呪いながら、半兵衛は自室の寝台に潜り込んだ。
そういえば、を城の外に追い出してしまったのだ。
自分のことを思って言ってくれたのに、酷いことをしてしまった。
半兵衛は寝台の中から兵を呼びつけた。
「・・・に城に戻るように言ってくれ。僕の部屋に来るようにと。」
「はっ。」
謝らなければ。
子供染みたことをしてしまったことを。
「ふーんだ半兵衛のバーカ・・・。もう帰ってやんないもんね。いいもん家出するもん。」
石ころを蹴りながら、は山を下っていた。
後ろから門番が呼び止めていたような気がするが別にいい。
「半兵衛のヴォケ!!!アフォー!」
「お待ちくだされ様!」
「うぇ!?なんか来た!!逃げろ!!!」
「・・!?お、お待ちください!!半兵衛様から城に戻るようにと・・・」
「知らないもんねー!!半兵衛なんか知らないもんねー!!!」
はバックをごそごそと漁った。
「でも薬はあげるよーん。あいつには恩があるからな。これで貸し借りなしだぜ。」
「・・・・!?;;;」
「半兵衛の野郎にこれ飲むように言っておきな。優しさでできているファファリンとぺンザブロックだ。」
何故か男らしく瓶を兵に投げたは、「じゃあな」と再び男らしく手を振った。
「ど、どこに行かれるのですかっ;;!!」
「決まってんだろ、男には旅しかないのさ。」
あんた女だろ!!と心の中で突っ込む兵士。
急いでを追うが、バックから何やらおかしなものを落とし、それに飛び乗って走り出してしまった。
「科学の進歩自転車だー!!!どけどけー!!!」
「様ぁぁ!!お待ちくだされー!!!城の外は危のうございまするゆえっっっ!!!!」
「旅に危険はつきもんだぜ。覚えておきなベイビー。」
「きゅ、救援をお願い致す!!様が暴走なさっておる!!!」
大声で門番に叫んだ兵は、息を切らしながらを追ったが、流石に追いつけなかった。
仕方なく、半兵衛に報告に向かった。
「半兵衛様!!」
「・・・・どうしたんだい、あまり大声を出さないでくれないか。」
「様が逃走なされました!!」
「・・・・・・・・早く追いたまえ。にくらい追いつけるだろう。」
「そ、それがおかしなカラクリに乗って行ってしまい、予想外にそれが速く・・・・。」
「いいから馬でも何でも使って追え!!」
「・・・・・は、はっ!!!;;;」
半兵衛の気迫に負け、兵は急いで部屋を飛び出した。
小さな瓶を二つ落として。
「・・・・・・・・。」
薬、という字が小さく書いてある。
恐らくが渡せといったのだろう。
なんだか嫌な予感がする。
「・・・・・・・・・・。」
どうでもいいと思っていたのに。
別に、どうなったって。
早く出て行けばいいと、思っていたのに。
思っていたはずなのに。
「・・・・・まさか、僕がこんなことで・・・・。」
半兵衛はかぶりを振った。
頭痛がさらに酷くなった。
第一章は終わりです。
もう殆どの方がわかったと思いますが、第二章からヒロインは別の軍で過ごすことになります。
ちょっとした雑談ですが、この話の久作はどちらかというと半兵衛に似た大人しげな性格なんですが、史実では結構気性は激しかったらしいですね。
半兵衛はゲームと同じように女顔で戦いには不向きの細身の体をしていたそうで、跡継ぎには久作を、と言われていたそうです。
半兵衛の性格は穏やかで、何かされても怒るどころかその心の貧しさを哀れむような人だったんですねー。かっこいい。(何)
第二章ではさらに色々なオリキャラが出てくると思われるのでご注意ください。